本文へジャンプ
統計・調査・報告書

公社債基準気配発表制度の見直しについて

はじめに

本協会においては、2001年4月16日に公社債・新業務委員会の下部機関として、「公社債基準気配発表制度に関する検討部会」(以下「検討部会」という)を設置しました。
検討部会においては、2001年3月期より、時価会計制度が本格的に導入されたことを契機に、同制度が利用者の自己責任のもとで利用されることを前提としつつ、基準気配発表制度の在り方や同制度の枠組み等についてさらなる検討を加え、同制度がより信頼性の高いものとなるよう諸施策を講じることを目的として、種々検討を行ってまいりました。
今般、検討部会においては、現行基準気配発表制度の目的が、本来「売買の参考」であることを明確化するとともに、その精緻性の向上を図り、気配報告協会員による「適正な報告」が行われることを確保するため、気配報告協会員に対して本協会が監査を行う等の改善策を取りまとめました。
公社債基準気配発表制度見直しの取りまとめに至る検討の過程は、平成13年4月~6月(第1期)および7月以降(第2期)の2期に分けております。

 

第1期(平成13年4月~6月)

第1期においては、まず現行制度の問題点の洗い出しを行いました。また、検討スタンスについては、協会員と顧客との間における「売買の参考に資する」という基準気配発表制度の本来の目的に軸足を置いて検討を進めることとしました。しかし、基準気配を時価評価基準に利用したいという投資者ニーズに配慮すべきであるとの意見も出され、この点をどの程度考慮すべきかにつき意見が分かれ、その後の議論においても、この点が争点となりました。

 

1.問題点の指摘

現行制度が抱える問題点については、以下の点が指摘されました。

 

(1) 時間的制約による物理的問題

現在、各気配報告協会員は、午後3時現在の気配(仲値)を午後4時までに本協会に報告することと規定していますが、約4,000銘柄についてわずか1時間の間に「適正な気配」を算出することについて、報告事務を処理する上で物理的な困難さが増しているとの指摘がありました。また、基準気配銘柄の数は、年々増加傾向にあり、今後も引き続き銘柄数が増加した場合には、迅速な発表や精緻性の維持・向上の観点から、その困難さが一層高まり、基準気配の適正性、信頼性の確保が憂慮されるとの指摘がありました。

 

(2) 報告気配に差異の大きい銘柄の存在等

基準気配銘柄に選定される対象債券の発行者または種類の多様化等が進むなかで、低格付けの社債を中心とした基準気配銘柄において、クレジット・リスクに対する見方の相違等から、報告値の差異が大きく開く銘柄が散見されます。このような銘柄の平均値は果たして市場実勢を的確に反映しているといえるのかどうか、「報告値の平均」を基準気配として公表することの是非について再検討すべきではないか、との指摘がありました。さらに、報告システムに障害が発生したときには、このように報告値の差異が大きく開いた銘柄について、気配報告協会員数の変動によりその平均値が、前日または翌日の平均値と大きく乖離した実例が指摘され、今後も同様のことが発生するおそれがあり、連続性の観点から問題があるのではないかといった問題も指摘されました。
また、基準気配は、協会の一定のルールに基づき算出されており、恣意性が排除されていることから、公社債店頭市場の取引価格の水準を探る場合や、時価評価等の基準とする場合において、有効であるとの指摘がなされる一方で、「特定の銘柄(または気配報告協会員)については、適正な報告が行われていないのではないか」との指摘もなされ、そのような銘柄(または気配報告協会員)が存在することにより基準気配全体の信頼性が損なわれているのではないかとの指摘がありました。

 

(3) 現行システムの問題

基準気配が実態として時価評価の基準として利用されていることから、基準気配銘柄の数が急速な拡大傾向をたどるなかで、今後、利用者からさらに「対象銘柄の拡大」「発表時間の迅速化」「精緻性の向上」等のニーズが強まることが予想されます。現在の基準気配の利用実態については認めざるを得ないとしても、制度本来の目的を離れて、こうしたニーズを今後も充足していくことは、いずれ物理的・コスト的側面から気配報告協会員等に大きな負担が生じること、また、本協会における基準気配公示システムの現状に鑑みると、新たなシステム開発を行うこととなれば現在稼働しているシステムを全面的に変更する必要があるといった指摘もありました。

 

(4) 時価評価の基準として利用されるリスク

「売買の参考値」である基準気配が「時価評価の基準」として利用されることについて、そこに内在するリスクを考慮すべきであるとの問題提起がありました。この点については、基準気配は協会が定めた一定のルールに基づき算出する平均値であることから、「売買の参考値」であるとの前提条件を付して公表しており、アカウンタビリティを有しています。時価評価の基準として利用する場合には、利用者の責任において行われていることから、基準気配を訴因とするリスク等は特に見当たらないのではないかとの意見がありました。

 

2.基準気配利用者の意見

検討部会では、今後の検討に役立てるためユーザーとなる一部の機関投資家に対してヒアリングを行いました。投資家からは以下の意見が寄せられました。

 

(1) 基準気配の利用実態

投資者が基準気配を利用する一番大きな目的は、「売買の参考」としてではなく、会計処理、管理会計での「時価評価基準」としての使用である。

 

(2) 基準気配発表制度に関する意見・要望

「基準気配は制度本来の目的とは異なる使われ方をしていることは否めないが、大半の機関投資家が何らかの形で債券の時価評価に利用している現実についても理解してほしい」「運用資産の評価については、清算価値を測るという側面と各運用機関の運用能力を比較するという側面があるので、恣意性の排除、透明性の確保の観点で単一の尺度としての基準気配が非常に重要になってくる。今のところは恣意性を排除できる価格としての基準気配の評価は高いと考える」との意見がありました。
一方、「報告値がある程度のレンジに収まっていれば精緻性は担保されていると認識しているが、基準気配は実勢価格の動きに比べて変化が遅い傾向が見られる」という意見もありました。

 

3.第1期における具体的改善策

具体的な改善案としては、国債については、流動性が高く、気配報告協会員の気配値に大きな差異がないことから現行の発表方式を維持することとし、国債以外の公社債については「現行制度に基づいた具体的改善案」と「スプレッド方式の導入」の2つの改善方向の提案が行われました。

 

(1) 現行制度のもとでの具体的改善案

時価評価等にも利用されている現状を考慮し、現行制度について報告気配の精緻性向上の観点から次のような措置を講じる。

  • ① 報告時限の延長について
    報告気配の精緻性向上の観点から、気配報告協会員の報告時限を現行の「午後4時」から一定程度遅らせる。
  • ② 最低報告社数の引上げについて
    基準気配銘柄を選定する際に必要となる届出協会員数を、現行の3社から5社に引き上げる。
  • ③ 社内体制の整備
    適正報告を担保するため、気配報告協会員の社内整備状況等に関する資料提供を求め、本協会はその内容に基づいた運営が行われているかのチェックを行う。
  • ④ 銘柄数の絞り込み
    精緻性向上および報告事務削減に資するため、基準気配の対象となる銘柄数を絞り込む。

 

(2) スプレッド方式の導入案

基準気配は制度本来の目的である「売買の参考値」としての位置付けを一層重視した改善を図る。

  • ① 表形態
    国債以外の公社債については、格付け等のカテゴリー別、年限別のスプレッド(アスク・ビッド)を公表する。
    (注)スプレッドとは、国債との利回り格差である。
  • ② 気配報告協会員の拡充
    上記方法によるスプレッド公表を行う場合には、一般に報告者の負担が軽減されることが期待されるため、現行制度において気配報告協会員でない主要な市場参加者の新規加入を要請し、気配報告協会員の拡充に努めることにより、制度の信頼性を高める。

 

(3) 一定水準以上に報告値の広がった銘柄の基準気配公表の取扱い

一定水準以上に報告値が広がった(例えば利回り基準0.25%)銘柄については、基準気配の公表を行う際に、当該銘柄に記号等を付して明示するとともに、「一定水準以上に報告値が広がった銘柄であることに留意されたい」旨の注意喚起を促す注釈を加える。

 

4.2つの改善方向に対する意見

国債以外の公社債ついて上記(1)(2)の2つの改善方向については、次のような賛否両論がありました。

 

(1) 「現行制度に基づいた具体的改善案」に対する意見

現状の時価評価基準の利用ニーズにも配慮し、現行制度に対して精緻性の向上策を措置すべきであるとの意見がありました。
これに対して、基準気配が売買の参考としてその役割を今後とも維持していくためには、抜本的な見直しが必要との意見がありました。

 

(2) 「スプレッド方式の導入案」に対する意見

国債の利回り等とのスプレッドは、投資家が「売買の参考」として投資判断をする際に価格・利回りのみが提示される方法よりも有用な情報である。また、報告事務の負担軽減による公表の早期化や精緻性の向上等が期待できる等のメリットがあるとの意見がありました。
これに対して、格付けが同じであっても個別銘柄ごとのスプレッドの違いが出ないため精緻性が後退する、個別銘柄の価格等が把握できないことから投資者の保護に資するという協会の目的に沿ったものとなり得るのか疑問が残る、また、時価評価基準に利用することは困難であり慎重な検討が必要である等の意見がありました。

このほかに、精緻性向上の方策として、「各気配報告協会員の報告値を当該気配報告協会員の個社名を明示して公表したらどうか。各気配報告協会員の報告値が市場の評価を受けることにより、結果として報告値の精緻性向上につながるのではないか」との提案があったが、これを支持する意見と「協会ホームページに掲載すれば、誰でも見られるので、悪意の第三者からのクレームが来るおそれもないとはいえない。各報告協会員における社内コンプライアンス上の問題が大きい」等の理由から反対する意見がありました。

 

5.第1期の結論

上記の点については、6月に開催された公社債・新業務委員会に報告されましたが、「スプレッド方式を導入した場合には、基準気配制度の内容が大きく変わるので、慎重に議論すべきである」「『ユーザーの利便性』と『報告会社の負担』の2つの視点からでなく、証券業協会の目的や公社債市場に果たすべき役割を考慮し、検討してほしい」等の意見が出され、検討部会においてさらなる検討を行うこととされました。なお、上記3.(3)については現行システムの変更を要するものではないことから、速やかに実施することと致しました(13年8月2日発表分の基準気配から実施)。

 

第2期(平成13年7月以降)

1.公社債の価格情報の在り方と協会のかかわり方

7月以降は、基準気配発表制度の在り方に関する根本議論も含めて検討を進めることといたしました。
まず、「公社債の価格情報の在り方」「協会の公社債価格情報へのかかわり方」について共通認識を得るため、「売買の参考として有効な価格情報の在り方」「時価評価の基準として有効な価格情報の在り方」「協会は公社債価格情報にどのようにかかわるべきか」についてそれぞれ検討を行いました。その結果、次のような意見がありました。

  • ① 売買の参考として有効な価格情報の在り方
    投資家の属性や商品の流動性等によって望ましい情報の形態が異なる。
  • ② 時価評価の基準として有効な価格情報の在り方
    恣意性が排除され、継続的に算出される一本値、第三者機関による公表等が要件として望ましい。
  • ③ 協会の公社債価格情報へのかかわり方
    公社債価格情報の提供にかかわるべきであるとの意見と、かかわるべきではないとの意見がありました。また、少なくとも協会が公社債価格情報を提供する場合は、取引公正性の確保、投資者の保護を目的とすべきであるとの意見がありました。

 

2.改善方向の検討

上記1.の点を踏まえてさらに検討を進めましたが、その際に「基準気配は売買参考値であるが、実際には評価基準としても利用されている。このような評価基準としての利用は、証券取引法に基づき認可を受けた非営利法人である『証券業協会』の名のもとに発表されることに対する社会的信頼性に依拠して、この点をアカウンタビリティとして利用しているケースもあるのではないか」「本来、時価評価への利用は、利用者の自己責任によって選択されるべきであり、こうしたいわゆる“協会ブランド”が独り歩きする事態は回避すべきである。また、報告気配に大きな差異のある銘柄において基準気配を時価評価に利用することについては、本来、利用者において十分な検討を加えた上で行われるべきである」との指摘がありました。
このほか、「午後3時現在における額面5億円程度の売買の基準となる気配(仲値)を各協会員が報告し、3社以上報告のあった銘柄の上下一定割合をカットした上でその平均値を基準気配として発表しており、恣意性の排除された価格として、利用者は自己責任のもとで利用している。また、一定水準以上に報告値の広がった銘柄には注意喚起を促す施策も打っており、取引公正性の確保、投資者保護の観点から協会が基準気配を発表する意義は大きい」とする意見も出されました。
また、「スプレッド方式」については、「利用者が欲しいのは個別銘柄の価格情報であり利用者ニーズに反する。基準気配を時価評価に利用することが実質的に不可能となる」など、否定的な意見が多数出されました。

 

3.売買参考統計値への変更案について

その後の検討では、流動性の高さ等から国債については特段の問題がないとの認識で一致し、国債以外の銘柄に議論が集中しました。現在の基準気配値は協会の名において公表する平均値という一本値であることにより「協会が公表する協会ブランド時価」として独り歩きしているという懸念が第1期検討部会においてもあったことから、「そもそも基準気配はレンジを示すべきで現在の最高値、最安値の公表のみとし平均値の公表はやめるべきである」「各報告値を加工することなく全報告値を個社別に公表し、どのように使うかは利用者に任せるべき」等の意見が出されました。これに対して「利用者の利便性、社会への影響度合いを勘案すると平均値を廃止すべきではない」との意見が大勢を占めました。
そこで、基準気配は基準気配報告会員の報告値を一定のルールに基づいて集計し発表しており、本来統計的性格が強いものであることに着目し、売買参考のための統計値であるという性格をより明確にするためには、現在の平均値のみを基準気配とすることを改め、平均値、最高値、最安値、に中央値等を加えた統計値すべてを協会の公表する売買の参考値とし、さらに基準気配という名称自体を「売買参考統計値」と改めることで利用者に対して周知・徹底するという改善案が提示されました。加えて第1期検討部会で提示された「現行制度のもとでの具体的改善案」のうち、報告時限の延長、協会監査の導入、最低報告社数の引上げ等を導入することにより精緻性の向上を図る措置を講じるとの提案がなされたことから、これを基に検討を行いました。
なお、議論の過程において、「国債等の流動性の高い銘柄については、現行の基準気配制度を残し、それ以外の銘柄については、『売買参考統計値』とする。この場合、基準気配銘柄については、日々の端末監視および定款第17条に基づく報告・資料の徴求のほか、本協会の実地監査の対象とする一方で、売買参考統計値銘柄については協会監査の対象とはしない」とする提案がありました。
上記内容については、9月14日開催の公社債・新業務委員会へ報告し、委員会より「投資家が現在の基準気配を利用している事実に配慮して検討を進めること、業者側の論理だけに立つのではなく市場参加者の評価が高くなるような方向に持っていくこと、発表銘柄数の減少や著しく発表時間が遅れることのないよう検討すること」といった意見が出され、委員会での意見も踏まえ、次の具体的改善策を取りまとめました。

 

4.公社債基準気配発表制度の改善方向の具体的内容

この改善方向は平成13年11月13日開催の公社債・新業務委員会に報告し了承されたものです。今後、パブリック・コメントの後に規則改正を行い、システムの手当てが整い次第、速やかに実現を図る予定です。改善方向の具体的内容は以下のとおりです。

 

(1) 公表形態

現在の基準気配(平均値)は単なる統計値であることから、統計値であることを明確にするため、最高値、最安値、平均値に加え中央値や標準偏差等を発表する。また、現行の「基準気配」という名称を廃止し、新たに「売買参考統計値」とする。

 

(2) 「報告値の精緻性」の向上

  • ① 報告時限を現行の午後4時から午後4時30分に延長することで、精緻性の向上および報告協会員の事務負担の軽減を図る。
  • ② 適正性に欠ける報告を排除するため、適正な気配値を報告するための社内規程の整備状況および報告事務にかかわる管理・運営体制並びに報告値としての妥当性について本協会が監査を行う。
  • ③ 現行3社としている最低報告社数を10社程度に引き上げる。

以 上